「ボッチプレイヤーの冒険 〜最強みたいだけど、意味無いよなぁ〜」
第16話

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ボウドアの村編
<村長>


 なんて言うかなぁ、これってかなりおかしな状況だよね

 今私がいる場所は周りに家は立ち並んでいるけど、村の中央広場に繋がる道で普段は人通りが多いからなのかそこそこの広さがあって、ちょっとした広場のようになってる

 そのような立地条件だからか野盗たちは襲撃場所として選んだろうなぁ
 それで今の状況だけど、その道の隅には人形か何かのスクラップらしき鉄の塊が通行の邪魔にならないように積み上げられている
 いや、人形ではなく、アイアンゴーレムの残骸なのかな?

 「あんなものまで持ってたんだ、この人たち、でも・・・」

 その鉄くずから少し目線をずらせば、そこには抵抗する気力さえなくなったのか地面に覇気のカケラも無くへたり込んでいる野盗たち
 その横には怒れるシャイナ
 そして、その前ではセルニアがうなだれている

 「店長、こちらが正義のヒーロー的な立ち位置なのよ!悪役が最後の切り札を出して戦闘の前口上を披露している最中に攻撃を仕掛けるだけでも問題なのに、ましてや倒してしまってはダメじゃない!」
 「すみません・・・」

 大きな音がした後、静かになったようなので、まるんはユーリアたちを家に残し、様子を見に来た
 するとこの光景である

 「あんなふうに倒してしまったら、折角の見せ場なのに台無しでしょ。店長はパーティ部門の責任者でもあるのだから盛り上がるところはちゃんと盛り上げないと!」
 「すみません・・・」

 なんなの?この状況は
 野盗たち、別に怪我をしているわけでもないのに逃げる気配さえないし
 なんだろう、戦う前に決定的な敗北感を植えつけられたような雰囲気が漂ってる

 「それにあれでは自分たちの切り札がどう倒されたかさえ彼らは見ることができなかったでしょ。かわいそうだとは思わないの?」
 「うう、すみません・・・」

 それに店長も可愛そうに、あんなに落ち込んで
 シャイナのあまりの剣幕に、もういつ泣き出してもおかしくない状況じゃない
 もぉ〜、シャイナったらなにあんなに怒ってるんだろう?

 「ちょっとシャイナ、どうしたのよ。店長泣きそうじゃない」
 「あっまるん、ちょっと聞いてよ」

 ちょっと興奮気味で解り辛い所はあったけど、一通りはシャイナの説明で理解できた
 要するに野盗たちが意気揚々と切り札といえるアイアンゴーレムを出してきたのに、野盗のリーダーが口上を言い終わる前に倒してしまった訳か
 なるほどねぇ、確かにそれは店長が悪い

 「店長、それはダメだよ。せめて得意げに高笑いをするくらいまでは待たないと」
 「でしょぉ〜」
 「すみません・・・」

 私からも叱られてなお一層しゅんとするセルニア
 いけない、ちょっと言い過ぎたかな?
 ただでさえ落ち込んでいたのに私の言葉がダメ押しになったのか、とうとう目に涙がたまり始めている
 これはホローしないと

 「でっでもまぁ、シャイナもそこまで言う事はないんじゃない?店長も悪気があった訳じゃないし」
 「そうだけどさぁ」

 シャイナからするとマスターの考えるであろうことが一番だから解らないでもないけど(実際私もその一点では同意)そろそろ許してあげないとセルニアが可愛そうだ
 流石にシャイナも同じ意見なのか、店長のそんな表情を見てとりあえずそれ以上何かを言うのはやめたみたいだ

 「と言う訳だから、店長、泣きそうな顔しないの」
 「はい、まるん様」

 未だ泣きそうな顔ではあるが、店長への対応はとりあえずこれで大丈夫だろし、これからの事をシャイナと相談しなくちゃいけないね

 「ねぇシャイナ、この野盗たちはどうするの?」
 「う〜ん、どうしよう」

 さっきの話からすると、もうこの野盗たちは逃げる気力さえ無いだろうなぁ
 切り札で、自分たちよりはるかに強いゴーレムがよりによってメイドに素手でつぶされたのだから
 実際全員の目が完全に死んでいる、まるで前日に売れ残った魚の目と言ってもいいくらい死んだ目だ

 「さっきの話からするとこの人たち、もう立ち直れないんじゃないかな?」
 「もう、反抗する気力は無いだろうね」

 まぁ、野盗たちが立ち直れないのはいいことではあるけどね
 でも流石にこのまま放置と言うわけにもいかないから

 「えっとあなたたちのリーダーは誰?」

 と、誰と話していいか確認するために聞いてみたけど反応なし
 う〜ん、よほど心が折れたんだろうなぁ、全員顔を下に向けて地面を見つめているだけだ

 そんな状況を見かねてなのか、それとも流石にこのままでは埒が明かないと思ったのか、シャイナが私にリーダーと思われる人を教えてくれた

 「あっ多分あいつだよ、一番偉そうだったし「愚鈍なる鉄巨人の人型」もあいつが使ってたし」
 「ありがとう、シャイナ」

 シャイナが指差した男の下に歩み寄る

 「あなたがリーダーね。念のため聞くけど、抵抗する気、ある?」

 うつろな目で私を見上げた後、首を横に振る野盗のリーダー
 う〜ん、この状況では何を聞いても無駄だろうなぁ

 「この村にこの野盗たちを捕まえておく牢屋みたいな場所は・・・流石に無いよねぇ」
 「そうだろうねぇ」

 シャイナの話ではそれほど強くないみたいだけど、村人より強いのだけは確かだと思う
 私たちがいつまでもこの村に滞在するわけには行かないから、ちゃんとした拘留を出来る施設がないのならちょっと問題かな
 今はこんな感じだけどたぶん時間がたてば気力も回復するだろうし、捕まえたはいいけど、このまま村に残すわけにも行かないよね

 「この村に残して行って、ユーリアちゃんたちに何かあっても困るしなぁ」

 殺してしまえば簡単だけど・・・

 「野盗とはいえ、誰も殺していない相手を殺すのもね」
 「そうだよねぇ」

 殺すと言う言葉に一瞬ビクッと反応する野盗たち
 でも、その後の言葉に安堵の息がもれ聞こえる

 こうなると自分たちだけで決められないし、マスターに相談すべきだよなぁ

 「ねぇシャイナ、私たちだけじゃ判断できないし、あるさんに相談しようよ」
 「そうだね。あ、でもその前にこの村の人の意見も聞かないと、勝手に決められないこと無い?」

 確かにその通りか
 捕まえたのは私たちでも、被害にあったのは彼らだ

 「でも、殺してしまえと言い出したら止めるからね」
 「それはそうでしょ」

 と言うわけで野盗たちを大きめな家の壁を背にするように一箇所に固まるようにして座らせてセルニアをその監視に残し、私とシャイナは村人たちが逃げ込んだであろう一番大きな家?倉庫?に向かう
 集会所なのだろうか?他の家より大きな建物の中に、避難してきていた人々が心細げに集まっていた
 そしてその村人たちなのだけど・・・

 「シャイナぁ、いったい何したの?」
 「あははははは」

 所在なさげに頭をかくシャイナ
 何と言うかなぁ、村人たちがシャイナに向ける視線に非難とおびえが見えるんだよなぁ

 「人質になった村人を見捨てようとした」
 「おいっ!」

 小首をかしげて肩をすくめ、舌を出しながらウインクをした上に「テヘッ」って声をまで出して笑うシャイナ
 ダメだよ、そんな”可愛いと言われるテンプレな”顔したって!まったく、なにやってんのよ!

 そんな私の考えが伝わったのか、今度はまじめな顔をしてシャイナは言い訳をしだした

 「まぁ、ああしなかったら人質になっていた人たち、全員連れ去られていただろうし、そうなったら逃げるのに邪魔だからと3人とも殺されていたかもしれないから仕方なかったんだよ」
 「まぁ、解らなくもないけど・・・」

 それでもダメでしょ、一応助けるような姿勢だけはしないと

 「まぁ、全員助かったからいいじゃない」
 「開き直らないのっ!」

 と、一通りシャイナと漫才をした後、村人に向き直る

 「えっと、この村の責任者の人、いますか?」
 「私がこの村の村長だが・・・」

 お年寄りが出てくるかと思ったら意外と若い、45〜6の男性が前に出てきた

 「(意外と若い人がやってるんだ)野盗たちをシャイナとセルニアが捕まえたんですけど、どうします?」
 「どうしますとは?」

 何を言っているのか解らないといった感じで村長が聞き返してきた
 いや、今は意識して大人っぽく話してはいるけど、どう考えても私の外見は子供なんだから私に聞き返すのは変でしょ

 「野盗たち、引き渡しましょうか?と言っているんですよ」
 「引き渡すって、あなた方が何とかしてくれるのではないんですか!?」
 「何とかって?」

 まぁ、大体予想は付くけど・・・

 「全員殺すとか・・・」
 「な訳無いでしょ!」

 あまりの発言にシャイナの目がつり上がって怒りのまま叫ぶ
 そのあまりの剣幕に、殺気を含んでいなかったにもかかわらず村人たちは震え上がってしまった

 まったく、なに考えてるんだか
 苦労して捕まえたのだから、殺すわけがない事くらい想像出来るでしょ

 「殺すのなら捕まえたりしません。第一誰も殺していないものを殺すなんて、この国ではどうか知りませんが、私たちの国ではしませんよ!」
 「それとも誰か殺された村人、いるんですか?」

 シャイナが逆上気味に話すので私はわざと丁寧さを意識して、”セルニアが監視していたのだから絶対にありえないけど”私たちが知らない所で死人が出ているかもしれないから念のためと言うニアンスで聞いてみたが、当然殺されたものなどいないので村長は言葉につまり黙り込んでしまう

 では周りにいる人たちはどうだろうと村人たちの方を窺ってみても、本音では野盗たちを殺してほしそうではあるものの、全員目をそらすだけで、何か言おうとする人さえ皆無だ

 「あ〜、このまま引き渡してもいいけど、あなた方が彼らを殺すというのであれば引き渡す事はできませんよ」
 「て言うか、今はおとなしいけど殺されるとなれば抵抗するだろうし、たぶん彼らなら手足を縛られてもあなた方を殺せるくらいの実力、あるんじゃない?」

 シャイナぁ〜、それは脅し文句だよ
 あ、でも、脅しがいい方向に向いたかな?シャイナの言葉に村人たちがざわつき始めた

 「そんな者たちを残して行ってもらっては・・・・」

 村長の顔にも今こちらに手を引かれては困ると言う色がありありと見える
 よし、折角だから乗っかろっ

 「う〜ん、どうしようかなぁ?ねぇ、シャイナ、こういう場合は村に引き渡すのが普通なんだよね」
 「そうだね、私たちには責任が無いし」
 「そんなぁ」

 クスクス、困ってる、困ってる
 でも、いつまでも困らせていても仕方がないからこの辺りで助け舟を出すかな

 「でも、そうなるとユーリアちゃんたちが困るよね」
 「まるん!ユーリアちゃんたちが困るのはダメよ!」

 うん、私もそう思う
 でもシャイナ、その返答はあまりにもあからさまだよ
 村人たちよりユーリアちゃんたちが大事だって言っているようなものじゃないか
 まぁ、私も同じ意見だけど

 「流石にこれは私たちでは判断できないね」
 「そうだねぇ」

 もう村長は何も言葉を発しない
 こちらの結論をただ待つだけの存在になってしまった
 では周りの村人たちはと言うと、こちらが何を言い出すのか、不安げに固唾を呑んで見守っているだけだったりするし

 大の大人がこんなにいて、子供相手にこの反応はどうなんだろうなぁ?
 まぁ、こちらに野盗を押し付けたいと言う気、満々だろうけど、下手な事を言ってそのまま去られてはいけないと言葉を発する事さえできなくなってるんだろうけど

 「村長さん、私たちでは判断できないから私たちのマスター、御仕えしている方に相談してもいいですか?」
 「はっはい。しかし、私たちとしてはその御方が見捨てろと仰った場合は・・・・」

 そうだよなぁ
 野党を残して行けと言われたら困るだろうなぁ

 「それに関しては、私の友達のユーリアちゃんたちが困るから何とか頼んでみますよ」
 「そうだよね、他はともかく、ユーリアちゃんたちが困るのはだめだからね」

 すかさずシャイナが割り込んでくる
 まぁ、これは別に村長の援護射撃をした訳ではなく本音なのだろうけど

 「お願いします」
 「では、連絡を取ってきます。結果は後で報告しますね」

 そう言うと、村人たちが集まっている場所を後にした
 よし、これで私たちの判断だけでどうにでもなるぞ

 「マスターならユーリアちゃんたちが困るような判断はしないよね」
 「マスターだからね」

 ある意味面倒ごとは終わったし、後はマスターに丸投げしてユーリアちゃんたちと遊んでいればいいよね
 マスターが聞いたら怒るかなぁ?なんて事を考えながらシャイナと二人、軽い足取りでユーリアたちの家に向かうまるんだった

あとがきのような、言い訳のようなもの


 何と言うか、まるんもシャイナも村人を平気で脅すなぁ
 これでヒーロー気取りなのは流石にどうかと思うんだけどw

 読んでもらえば解るとおり、今回まるんは村人たちに対してあえて子供っぽい口調を封印しています
 これは普段子供っぽい口調で話しているけど、実際はある程度の年齢であるので相手によって口調を変えられるくらいの知識は持っているからです

 今回はどちらかと言うと脳筋気味のシャイナがパートナーなので、まるんが村人たちとの交渉をしなければいけないのだろうと判断してしっかりとした口調で話をしているんですよ

 実はこれ、結構無理をしていて、本当はもっと無責任に行動したいと思うキャラなのですが、主人公の命令を無視して行動してしまっているので少しでもその失点をカバーできるように行動しているだけです

 そうでは無かったらきっといたずら心全開で村人たちをもっと困らせていた事でしょう
 グラスランナーと言うのはそういう種族なので

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